神経が影響を受けやすい肩の構造

腕や肘の痛みのイメージ 腕の痛みの発生部位と分類、胸郭出口症候群、斜角筋症候群、頚椎の神経根症

ふつうにしていればなんでもないのに、右図にあるように、腕の伸ばした状態で物を持とうとすると痛みやしびれ感を感ずるということがあります。これが腕や肘の痛みの初期段階のしるしです。

このような痛みやしびれの原因は、多くの場合、腕や肘そのもではなく背骨の側にあります。これは姿勢のアンバランスによって緊張した筋肉や、本来の位置を外れた背骨の関節が、神経を圧迫することによって症ずる症状なのです。

このような肘や腕の痛みやしびれは、多くの場合、右左いずれ一方の片側性です。ただし、慢性化してくると左右両方に症状が出てくる場合もあります。

このような肘や腕の症状は、1.斜角筋症候群、2.胸郭出口症候群、3.頚椎の神経根症、の3つにわかれます。それぞれ、どのような経緯で神経が圧迫されているかを示していますのでよく理解しておきましょう。

斜角筋の経路と腕神経叢 斜角筋症候群は、頚部の側面を走行する斜角筋によって腕に向かう神経系が圧迫されて症状が出ます。斜角筋には、前・中・後の三つが部分があります。

前斜角筋は第1肋骨の前側から第3〜7頚椎の側方に付着します。首を前に引っ張ると同時に、第1肋骨を上方に引き上げます。中斜角筋は第1・2肋骨の前側で肩に近いにあたりに付着して、首を前に引っ張ると同時に、第1・2肋骨を上方に引き上げます。後斜角筋は、第1肋骨の後面から第3〜7頚椎の側方に付着します。後斜角筋は、首を引き起こすように作用します。

右図で黄色く示されたのが腕に向かう神経です。斜角筋が緊張している人は、これらがいつも圧迫された状態になり、痛みやしびれがでてくるのです。

前斜角筋中斜角筋の緊張は、姿勢上の問題よりも、これらの筋肉をコントロールする神経系特有の影響を受けて発生することが多いようです。斜角筋をコントロールする神経神経は、横隔膜をコントロールする神経(横隔神経)でもあるからです。

頚肩腕症候群

なぜ横隔膜なのかと思われるかもしれません。横隔膜は、魚にたとえるとエラと同じ役割を持っています。じつは斜角筋も呼吸補助筋なのです。この神経は、横隔膜の運動をコントロールすると同時に、胃や肝臓など、横隔膜周囲の消化管の緊張を伝える性質をもっています。このため、胃や肝臓などの緊張が、前斜角筋中斜角筋の緊張を誘うのです。

一口に消化管の緊張といっても、かならずしも病院の検 査にひっかかるような重い病気を意味しません。たとえば胸焼けを起こしやすい人、職場のクーラーや睡眠中の冷えで冷えを感じている人、精神的なストレスに弱い人、こういった方は、いずれも胃が緊張状態に置かれています。また便秘症の人、油ものがお腹にもたれる人などは、肝臓が緊張状態に置かれています。このようなことが横隔神経を介して、斜角筋を緊張させるのです。

猫背の鑑別01 おなじ斜角筋症候群でも、後斜角筋の緊張は姿勢の影響を強く受けます。一般に首が前傾している人、肩こりを訴える人、とくに肩甲骨のなかが凝るような感覚を持つ人、首を側方に倒しにくい人は、後斜角筋が緊張しています。

ご自分の姿勢を横から見てもらってください。このときに首が前に傾いているとすれば後斜角筋が緊張していると考えよいでしょう。耳の穴と肩の位置の関係に注目すると、首の傾きがよくわかります。

猫背の鑑別02 右図のように仰向けに寝て肩口の背骨が床から5cm近く浮いている人、あるいは肩口から背中に手を差し入れたときに肩甲骨の中くらいまで簡単に手の入る人は、かなり猫背の進行した人だといえます。

猫背と姿勢の関わりについては、姿勢の基盤は腰にある姿勢が生み出す神経症状でより詳しく解説していますので、ぜひ参考になさってください。猫背の特徴のあらわれている人は、機能的姿勢のstage02からstage04への移行期にあることをしめしてます。

斜角筋症候群の方に対しては、筋肉の緊張を緩めることはもちろんですが、姿勢的な要因を取り除くこともとても重要な意味を持っているのです。

いずれも姿勢とのかかわりがあります。一般に、長く時間が経過しているものほど時間を要する傾向がありますが、原因をふまえて適切に施術ををすれば2〜3回で目に見える症状の改善があらわれてきます。

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