自己治癒力を高める自律神経

自律神経の中枢、間脳の視床下部

わたしたちの体内には、さまざまな役割分担があります。

大気から酸素を取り込み二酸化炭素を排泄する、タンパク質やさまざまな栄養素の分解・貯蔵、血液中の濃度の調節をおこなう肝臓、体内の窒素分の排泄やミネラルのバランスの調節をおこなう腎臓、血液の循環を生み出す心臓、身体運動を生み出す筋肉など、それぞれの働きが連携しあって、体内の細胞の活動が支えられています。

わたしたちが、健康で快活な日常生活をおくるための基盤です。

ひとたび体内器官のバランスが乱れると日常生活にさまざまな支障が生じてきます。血糖値が上昇したり、肝臓の機能が低下したり、尿酸値が高くなるなど、実際に血液検査などで異常な数値があらわれてきたときには、医療機関を受診し適切な治療を受けなければなりません。

しかし、実際には検査の数値に異常が見られないにもかかわらずどうも身体がだるくて疲労が取れなかったり、病院で治療や投薬を受けているのに身体の不快感が抜けないといったことあります。

このようなとき、自律神経と呼ばれる神経にシグナルがあらわれています。

背中がこわばる、よく夜眠れない、お腹の調子が悪い、息が切れて思うように動けない、生理が遅れたり生理痛がきつい、ストレスに弱く精神的に落ち込みやすい、いつも疲労感を感じ活力が出ない、体温が低い、手足が冷えやすい、などといったときには、自律神経の状態をよく調べて整えておくとよいでしょう。

自律神経は、体内のさまざまな器官の活動のバランスを調整し、睡眠と覚醒、活動と休息などのリズムを適切にコントロールしている神経系です。

自律神経の中枢は間脳の視床下部というところにがあります。交感神経系副交感神経系、二種類の異なる経路を通じて、全身の器官の働きをコントロールしていています。

自律神経を整えるということは、緊張している交感神経副交感神経を鎮静し、両者のバランスを取ることなのです。 内臓に分布する毛細血管 体内の器官には、特定の役割を専門とする細胞が分布していて、緻密な組織を作り上げています。血管のネットワークがそれぞれの器官を結んで、たゆまなく新鮮な血液を供給しています。そのおかげで酸素や栄養素、ミネラルの供給が保たれると同時に、不要となった老廃物や炭酸ガスの除去が効率的におこなわれ、体内の環境が適正に保たれているのです。

自律神経系は、内臓諸器官や血管、汗腺、瞳孔などの動きを必要に応じて自動的に調節してくれている神経系です。これには、代謝を促進する"交感神経系"と代謝を抑制しエネルギーの取込みを促進する"副交感神経"があり、両者のバランスによって、内臓諸器官を休むことなくコントロールしているのです。

自己治癒力を高める自律神経

交感神経系は、おもに脳が覚醒し活発に筋肉運動をおこなう時に生ずるさまざまな生理的な変化、例えば血中の酸塩基のバランス、酸素の分圧、電解質のバランスの乱れを整えたり、余分な熱の排出や血中に必要なエネルギー源を確保する働きに優れています。脳の発意に基づいた意識的な活動をたえずバックアップしてくれている大切な神経系で、気温の変化、運動による代謝の変化などなどに即応して、背骨のなかを通っている脊髄から内臓諸器官や血管、汗腺などを絶えず調節しています。

副交感神経系は、脳による能動的な身体の活動を抑え心身に休息をもたらすと同時に、内臓諸器官の働きを活発にして、エネルギーの取り込み、組織の修復などを促します。体細胞の代謝は抑えられ、体温は脳の深部体温が一定以下に下がるまで、自然に下降してゆきます。心臓の冠状動脈が収縮して心臓の動きが緩慢になり、呼吸筋の運動も抑制されます。末梢の血流は抑制され、尿の排泄が抑えられ、体幹部に血液が集められ、内臓諸器官によるエネルギーの取込みや修復が活発に行われます。

両者のバランスが崩れると、体内の組織への血液の供給にとどこおりが生じ、酸素の不足によって組織のなかの電気的なバランスが崩れてしまいます。わたしたちの組織の活動を支えている細胞の活動は、体内の電気的なバランスに依存しているため、このような状況に陥ると活動が停滞するばかりでなく血管透過性が更新し、組織がはれたり損傷を受けたりします。

このようなとき、自律神経系の知覚繊維をつうじて、体表部にうずくような痛みや皮膚の圧赤、筋肉の強い緊張やこりを生じます。背中が張る、身体がだるい、身体が重いなどの感覚が生ずるのは、このようなときです。

地下鉄の階段を駆け登ると、だれでも心臓の鼓動が激しくなり、汗が吹出して来ます。このように活動的な身体のバランスを保ってくれる神経系が交感神経です。このように正常なバランスをすみやかに回復してくれる働きをホメオスタシと呼んでいます(W.C.キャノン)。

自律神経の緊張の脊髄神経の緊張 しかし、体内の組織のバランスが乱れ、体表部にこりや筋肉の緊張があらわれてくると、その部位は力がでなかったり、疲れやすく痛みを感じやすくなります。

このような状態がさらに進むと、動悸がおさまらなかったり、呼吸がくるしかったり、汗がとまらなかったり、階段を駆け上ったあとなどで身体の状態が安定するまでしばらくやすまなければ動けないほどのショックを感ずるようになります。スムースな日常活動はさまたげられ、身体が重く苦しい状態が長引くことになります。

現代の社会生活は、高速化・高度情報化が進んで、たえず交感神経系の緊張を強いられる生活です。その結果、過剰のストレスを生じたり、物質的な豊かさのなかで嗜好品などの過剰な摂取が進んで、内臓諸器官が疲労した状態におかれることが少なくありません。

その結果、本来交感神経系の支えを必要とする昼間の時間に、倦怠感に襲われたり、横になって休みたいと感じたり、呼吸器や循環器の活動が抑制されて、息や胸が苦しくなるなどの副交感神経的な身体になっているのです。

腰痛、肩痛、肩こり、寝違いなどの諸症状は、このような土台の上に発現してきます。身体の不調は、全身の筋肉に影響をあたえ、硬くなっているところ、力のないところ、また動きに制限のあるところなどを生じてきます。

このような身体の歪みを読み取ると同時に、顔色やお通じの状態、睡眠の状態、食事の嗜好や食後の身体の状態などをつうじて、内臓諸器官の疲労のようすを読み取りながら、土台から身体のバランスを整えてゆくアプローチが、求められている時代なのです。