外反母趾は荷重のアンバランスから

外反拇趾による痛みは女性に起こるものと思われがちですが、男性にもないわけではありません。ハイヒールなどの、先の狭くなった靴の形状が原因だとする考えが広く行き渡っていますが、じつは足指だけの問題ではないのです。

指の間を広げ、親指を引っ張り戻す装具を用いているにあたっても、甲が扁平になっていわゆる開帳足を招くようだとかえって逆効果だということを知っておきましょう。

外反拇趾の方は、足の甲、とくに指の付け根の部分が偏平になり、足指の力がぬけているという特徴があります。立って足の指先を触ってみてください。足の指が脱力した浮き指状態になっていませんか?

靴の形に注意が集まって見落とされていますが、外反拇趾の背景には、足裏アーチの低下による荷重バランスの乱れがあります。外反拇趾の痛みには、腰や股関節、足首を含めた足の関節の構造的な問題が関係しているのです。

わたしたちの足指は親指が他の指に比べてとくに太くなっています(上図参照)。指の付け根は少し外を向き、他の四つの指とはかなり違う形をしています。足の親指はたえず他の4つの指から離れようとする傾向を持っているのです。

オランウータンやチンパンジーなどの霊長類では、足の指も手と同じようにものをつかむことができます。親指と他の四指との対向位は、木登りを得意とする霊長類では当たり前の構造です。わたしたちの足の親指もこのような霊長類の名残(なごり)を残しているのです。

人類は、同じ霊長類のなかで唯一、完全に直立二足歩行をおこなう生き物です。このことが土踏まずを中心にした独特な足裏の構造を生んでいます。多くの人を悩ませる外反母趾の痛みはこのことと関わりが深いのです。

荷重バランスを修正する

青竹踏みをしてとても痛い思いをした経験をしたことがありませんか? 立って二本足で歩くとたえず足裏の筋肉に負担がかかります。足先に向かう血管と神経は内くるぶしの後ろをとおって足裏に入ります。

青竹踏みをすると痛いのは、これらの血管や神経は直接圧迫するためです。足裏アーチ(土踏まず)は、これら足裏に分布する血管や神経を保護してくれているのです。

実際にどのように足裏アーチ(土踏まず)ができているかを見てみましょう。

足首は、距骨踵骨という2つの骨が縦に積み重なった構造をしています。上側の距骨からは、第1〜3指につらなる内側のラインが生まれ、下側の踵骨からは、第4・5指にいたる外側ラインが生まれます。

五本の指の根元にある段違いの構造(距骨踵骨)が、足裏アーチ(土踏まず)を作っているのです。

さらに、それぞれの指の根元の骨の断面は、上(甲側)が広く下(足裏側)が狭い台形をさかさまにした形になっています(右図参照)。それぞれの指がしかり束ねられれば、ドーム状の形ができるようになっているのです。

しかし、現代人は1日の多くの時間を座ってすごします。さらに、道路が舗装され、靴の性能も格段にたなくなったため、足裏の筋肉をしっかり使うことが極端に少なくなりました。

このような弱った足を、デザイン的な観点から作られた先の細い靴のなかに押し込んでいれば、足指の形が崩れてしまうのは避けがたいことです。

実際に足の形を矯正して痛みを取り除くためには、たんに外反した親指の形にばかり注目していたのでは効果が上がりません。大切なのは、足にたいする荷重バランスをただし、足裏アーチをしっかり形作るようにすることなのです。

たとえば、内くるぶしの下やや前方の骨が飛び出していませんか? 飛び出しているのは第一楔状骨と呼ばれる骨で、この飛び出しは歩くときに足裏アーチに捻れの力がかかっていることの証です(下図参照)。

このような荷重の乱れは、股関節や骨盤のゆがみ、腰のアンバランスなどによるもので、足裏の筋力の低下とあいまって足裏アーチ(土踏まず)の「くずれ」を悪化させる大きな原因のひとつです。

施術にあたっては、「足腰の歪み」や「歩き方のバランスの乱れ」を含めた全身の調整とあわせて、テーピングを活用した足裏アーチの補強方法のご指導いたします。

とくに症状がではじめの方は早めに施術をご利用いただき、外反母趾が進行しないように努めるとよいでしょう。ぜひ、脚もとの不安を取り除き、快活な日常生活を取り戻してください。